北陸の食品工場でFSSC22000・ISO22000認証担当になるキャリア
- FSSC22000はISO22000に食品安全文化などの追加要求を加えたGFSI承認スキームです。
- 農林水産省の統計で2023年の食品輸出額は1兆4,547億円と過去最高を更新し、北陸メーカーの認証取得ニーズを後押ししています。
- 北陸ではHACCP推進担当からFSSC22000導入・維持の経験を積むと、求人票の想定年収が目安40万〜60万円上がるケースがあります。
「今度、うちの醤油をアメリカに出すことになったんですけど、バイヤーさんから『FSSC22000は持っていますか』と聞かれて、正直何のことか分からなかったんです」
0. HACCPの次に立ちはだかる「認証」の壁 なぜ北陸で今、FSSC22000なのか
2021年6月の食品衛生法改正でHACCPに沿った衛生管理が原則すべての食品等事業者に義務化されてから、北陸の食品工場でも品質管理・品質保証の求人が増えてきました。ここまでは他の記事でも書いてきた話です。ただ、ここ1、2年で現場から聞く相談の質が変わってきたと感じています。「HACCPはもう回っています。次にFSSC22000を取りたいと言われているんですが、何から始めればいいですか」という相談です。
冒頭のセリフは、僕が実際に北陸の醤油メーカーの品質保証担当者から受けた相談を、ご本人の許可を得て要約したものです。輸出を検討し始めたタイミングで、海外バイヤーからGFSI承認スキームの認証を求められる。これは北陸の発酵食品・水産加工品メーカーで今後増えていくパターンだと、僕は体感しています。
この記事では、ISO22000・FSSC22000という2つの認証がHACCPと何が違うのか、北陸でなぜ今求められているのか、そして未経験やHACCP推進担当止まりの人がそこにどう到達すればいいのかを、実務目線で整理します。想定している読者は、HACCP推進担当としての経験があり、次のキャリアの一歩を考えている方です。
1. ISO22000・FSSC22000・HACCPの違いを実務目線で整理する
まず整理しないと話が進まないので、3つの言葉の関係を先に書きます。HACCPは食品衛生法に基づく衛生管理の「手法」で、原則すべての食品等事業者が対象です(厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化」)。ISO22000は食品安全マネジメントシステムの国際規格で、HACCPの手法を経営の仕組みの中に組み込むための枠組みです。FSSC22000は、ISO22000にPRP(前提条件プログラム)と食品安全文化などの追加要求事項を加えたスキームで、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)が承認している点が最大の特徴です。
| 項目 | HACCP | ISO22000 | FSSC22000 |
|---|---|---|---|
| 位置づけ | 食品衛生法に基づく衛生管理の手法(原則義務) | 食品安全マネジメントシステムの国際規格 | ISO22000+追加要求のGFSI承認スキーム |
| 誰が求めるか | すべての食品等事業者(法令) | 一部の取引先・親会社 | 輸出先・大手小売・GFSI準拠を求める取引先 |
| 北陸での実感 | ほぼ全事業者が対応済み | 導入企業は一部 | 輸出を伸ばす中堅メーカー中心に増加傾向 |
FSSC22000で追加される主な要求のイメージ
- 食品安全文化のマネジメント(現場の一人ひとりの意識・行動まで含む)
- アレルゲン管理の体系化
- フードディフェンス(食品防御)とバイオビジランス(生物学的な脅威への警戒)
- 環境モニタリング(微生物などの継続的な検査)
- 輸送・保管を含むサプライチェーン全体の管理
僕の体感値で言うと、北陸で実際にFSSC22000まで取得しているのは、輸出や大手食品メーカーへの原料供給を手掛ける中堅以上の水産加工・発酵食品メーカーが中心です。中小の米菓メーカーなどはまずJFS-B/Cという国内規格からステップアップするケースも増えています。JFS規格はGFSIのベンチマーキングを通過しており、国内の食品安全マネジメント規格として農林水産省も推進している位置づけです。
2. 北陸でFSSC22000が求められる理由 輸出とGFSIの結びつき
なぜ北陸でこの話が増えているのか。背景には輸出の伸びがあります。農林水産省「農林水産物・食品の輸出実績」によると、2023年の輸出額は1兆4,547億円で過去最高を更新しました。北陸は日本酒・水産加工品(かに・ぶり)・味噌醤油といった発酵食品の輸出適性が高い産地が集積している地域で、県単位の輸出促進策も進んでいます。
輸出先、特に欧米圏のバイヤーや大手小売は、GFSI承認スキームの認証を仕入れ条件にすることが少なくありません。ここでHACCPだけでは取引の土台に乗れないというケースが出てきます。これは僕が北陸の複数の食品メーカーの品質保証担当者から聞いた話で、体感としては、輸出比率を伸ばしたいと考えている中堅メーカーほど、この2、3年でFSSC22000の話が具体化しているという印象です。
3. 未経験・HACCP推進担当止まりから認証担当になるまでの道筋
ここが読者の一番知りたいところだと思います。順番に書きます。
- ステップ1:HACCP推進担当として1〜2年、CCPのモニタリングと記録を自分の手で回す経験を積む
- ステップ2:社内のISO22000/FSSC22000導入プロジェクトに手を挙げ、文書作成・内部監査の実務に触れる
- ステップ3:内部監査員養成研修(2〜3日程度)を受け、外部審査(サーベイランス審査)への同席経験を積む
まず土台として、HACCP推進担当としての実務経験(1〜2年程度が目安)は前提になります。危害要因分析やCCP(重要管理点)のモニタリングを自分の手で回した経験がないと、ISO22000の要求する「マネジメントシステムとしてのPDCA」の議論についていけません。次に、社内でISO22000/FSSC22000の導入プロジェクトに手を挙げること。多くの場合、品質保証部門や経営企画が主導しますが、実際の文書作成・内部監査の実務は担当者レベルに落ちてきます。ここに手を挙げられるかどうかが分岐点です。
資格面では、必須の国家資格はありません。ただ、内部監査員養成研修(ISO22000内部監査員研修、多くは2〜3日程度)を受けておくと、審査対応の実務がかなり楽になります。外部の審査機関やコンサルタントが開催する研修が中心で、費用は会社負担のケースが多いというのが僕の観測です。
転職市場での見え方としては、「ISO22000/FSSC22000導入・維持経験あり」は、北陸の食品品質保証職の求人でも明確な加点材料になります。HACCP推進担当としての求人は増えていますが、その一歩先の認証運用経験者はまだ少なく、経験者はやや売り手側に立てているという印象を持っています。
4. 審査対応の現場でよくある苦労 文書管理と内部監査の壁
認証取得・維持の現場は、想像より地味で、想像より人がぶつかるところです。僕が支援に入った北陸の味噌メーカーの初回認証取得の際、一番時間がかかったのは危害要因分析の技術的な話ではなく、文書の版管理でした。作業手順書が現場で使われている紙のバージョンと、PC上で管理されている最新版がずれていて、内部監査の指摘事項の半分近くがこの「版ずれ」だったのを覚えています。
FSSC22000は食品安全文化(Food Safety Culture)という項目で、現場の一人ひとりが食品安全をどう理解し行動しているかまで審査の対象にします。ここで苦労するのは、パートさんや季節雇用の方が多い水産加工・米菓の現場で、教育訓練の記録をどう残すかという点です。「毎年同じ研修をやっているのに、記録の残し方が毎回バラバラで審査員に突っ込まれる」という声は、北陸のいくつかの現場で共通して聞きました。
対処法として僕が勧めているのは、審査の1〜2ヶ月前ではなく、通常運用の中に月次の文書レビューを組み込んでおくことです。審査直前に慌てて文書を揃えるやり方は、結局その場しのぎになり、翌年また同じ指摘を受けるというパターンを何度も見てきました。文書管理の担当を一人に集中させず、ライン責任者にも版管理の意識を持ってもらう体制に変えたことで、翌年の指摘件数が明確に減ったという現場も見ています。
5. 年収・キャリアパスへの影響 品質管理から品質保証への一歩
数字の話をします。北陸の食品品質管理・品質保証職の年収は、他記事でも書いた通り、経験年数や役職によって幅がありますが、僕の観測(複数の求人・面談ベースの体感値)では、HACCP推進担当としての実務経験のみの層と、ISO22000/FSSC22000の導入・維持を経験した層とでは、求人票上の想定年収に目安で40万〜60万円ほどの差が出るケースが多いという印象です。これは職種を「品質管理」から「品質保証」に近づけるほど差が出やすいという傾向で、あくまで目安値であることは強調しておきます。中小規模でFSSC22000ではなくJFS-B/C止まりのメーカーでは、この差はもう少し小さくなる傾向もあります。
キャリアパスとしては、HACCP推進担当 → ISO22000/FSSC22000導入担当 → 品質保証課長・品質保証部門の管理職、という流れが北陸の中堅食品メーカーでは一般的な道筋になっています。この道筋の途中で、内部監査員としての経験を積んでおくと、将来的に品質保証部門全体をマネジメントする立場に上がったときにも、審査対応の実務を自分の言葉で部下に説明できるという強みになります。
6. まとめ(結論)
皆さんいかがでしたでしょうか。HACCPが「入口の義務」で、ISO22000・FSSC22000が「その先の選択」だという整理は、意外と現場でも整理されていないことが多いと感じています。北陸は輸出適性の高い発酵食品・水産加工品の産地が集積している分、この「その先の選択」を迫られる場面が今後増えていくと、僕は考えています。HACCP推進担当としての経験を積んでいる方は、次のステップとして社内のISO22000/FSSC22000導入プロジェクトに手を挙げてみることを、一つの選択肢として持っておいていただければと思います。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. ISO22000とFSSC22000の違いは何ですか?
ISO22000は食品安全マネジメントシステムの国際規格そのもので、FSSC22000はそこに食品安全文化やアレルゲン管理などの追加要求を加え、GFSI(世界食品安全イニシアチブ)が承認したスキームです。北陸では輸出や大手取引先向けにFSSC22000まで取得する中堅メーカーが増えている印象です。
Q. 北陸の食品工場でFSSC22000担当になるには資格が必要ですか?
必須の国家資格はありません。ただしHACCP推進担当としての実務経験(目安1〜2年)を土台に、ISO22000内部監査員養成研修(2〜3日程度)を受けておくと、社内の導入プロジェクトや外部審査への同席がしやすくなります。
Q. FSSC22000の経験があると北陸の食品品質管理職の転職で年収は上がりますか?
僕の観測(複数の求人・面談ベースの体感値)では、HACCP推進経験のみの層と比べ、ISO22000/FSSC22000の導入・維持経験がある層は求人票上の想定年収が目安で40万〜60万円ほど高いケースが多いです。あくまで目安値である点はご留意ください。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。